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最終更新:2003年7月27日

麻酔科医になった理由

 ポリクリ用の資料を作ったので、ついでにアップします。とても単純でくだらない理由です。

 大学5年生の後半、先生はある病院で実習をしていました。 昼間の実習を終え、その日は当直の先生といっしょに泊まらせてもらうことにしました。すると、夕食時も終わりに近づいた頃、さっそく急患が運ばれてきました。急に意識が悪くなったおばあさんでした。

 呼吸状態が悪く、顔面はチアノーゼで真っ黒。何科の先生だったのか覚えてないが、その当直の先生はこわばった表情で、
「君、 気管挿管をするから、すぐ準備してくれ!」
と、先生に向かって叫びました。

 当直の先生は、左手に喉頭鏡、右手にチューブを持って、懸命に気管挿管しようと頑張っているが、なかなか入りません。おばあさんの顔は真っ黒のまま。焦りと緊張の空気が流れました。

 そこへ、ふらっと顔を出したのは、麻酔科のO先生でした。どうやら、帰宅するところだったけど、ちらっと覗くと、おや大変、ということで声をかけてくださったのです。

 O先生は、非常に男前でした。先生は良く知らないんですが、俳優で例えると、「大沢たかお」という感じなのだそうです。もちろん、先生が若い頃の話ですから、今のO先生にその面 影はほとんどありません。やや長髪パーマで(天然かもしれないが)、さりげなく着こなしたダウンジャケットとジーンズが良く似合っていたのを覚えており、当時としてはとってもナウいって感じだったのです。

 O先生、お若いのに(いや、若いと思ってたんです。見た目だけでした。)、当直の先生とは対照的に落ち着き払っていました。おばあさんの顔に自分の顔を近づけると、
「あー、息してるじゃん。こういう時はねぇ〜、これだけでいいんだよ。」
と言うと、ひょいとおばあさんの顎を持ち上げました。すると、何ということだ、おばあさんの顔色が、見る見るうちに良くなっていくではありませんか。

 しかも、
「お、おばあさん、晩飯のおかず魚だったね。魚くせえもん。」
なんて、余裕 しゃくしゃくでありました。

 先生はまだ学生でしたから、それは超感動的な体験でした。だって、結構ベテランの先生がどうにもできなかったのに、麻酔科の先生は指1本で治しちゃった。何てすごいんだ!麻酔科医って!

 そうして僕は卒業後、O先生出身の麻酔学講座の門をたたきました。「指1本の治療」が、何てことない事だと分かったのは、それからすぐでした。O先生は、今ではすっかり偉くなられて、当時のバリバリの面影はありません。で、後悔してるかって?それは秘密でございます。

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