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2003/07/10 (木)
先生も、たまにはひとりで麻酔に従事します。
帝王切開。しかし、今日は勝手が違った。妙に怯える患者。聞けば、切迫流産の繰り返しで、妊娠期間のほとんどを病院で過ごしてきたという。そんな困難な道のりの劇的なゴールを目前に控えては尋常でいられないのも無理はない。
「生まれてくる時は少し苦しいかもしれないけど、頑張って」
ああ、我ながら背筋が寒くなるいつものセリフ、もちろん、営業用のセリフ。
無事娩出と同時に号泣の母親。これほど凄まじい嬉し泣きは、先生の長い麻酔科医経験をもってしても初めてだ。長い入院で思い入れも強くなっている看護師や産科医は、おめでとう、良かったねと、自分のことのように喜んでいる。
先生はもちろん・・・喜ぶそぶりなんて見せない。一緒に苦労してきた彼らには一緒に喜ぶ権利があるが、先生はたまたま今日来ただけの派遣医師である。
児はなかなかかわいい。手を握ったり開いたりしている。このー、苦労かけやがって、やっと生まれてきたかー、このー・・・ああ、いかん、いかん、感情移入は禁物である。先生はたまたま今日きただけの出張医なのだ。
「大騒ぎしてすいませんでした。苦しいどころか、かえって気持ちよかった。」
最悪の事態だ。母親に礼を言われそうである。今日たまたま来ただけの先生に、礼を言われる筋合いはない。何とか患者の視線から我が身を隠す。
無事に手術室を出るまで見届ける。患者に近寄りすぎず、離れず、絶妙の距離を置いて。ドアがあくと、だんな様と感動の再会である。いかん、だんなと目が合いそうになった。会釈なんかされたら、えらいことだ。先生は麻酔科医、人知れず命を預かり、人知れず無事を喜び、人知れず去っていく、さすらいの麻酔科医なのだ。先生は、人にお礼を言われたり、感謝されたりするために働いているのではないのだ。そんなの、プロではないのだ。
先生のサイトも、普通の医学系日記サイトみたいになりたくて、日常の診療風景を具体的に描いてみました。麻酔科サイトのくせに、サイト開設3年で、初めてやってみましたが、気恥ずかしいし、意外につまんないので、今日限りでやめます。