スミルノフ教授公式ウェッブサイト>教授日記ログ

スミルノフ教授の日記・過去ログ

2003/01/23 (木)

講義と授業

先生は、大学生の時に憧れた先生がいました。皮膚科の講師でした。当時、皮膚科といったら、なじみの薄い難解な病名を覚えるだけで大変、というイメージがあったのですが、その先生の講義にはほとんど病名が出てきません。発疹の写真や病理のスライドも登場しません。なんだか分からないけど、次々と生体内の化学物質の名前とその構造式が出てきて、ひたすらそれらが黒板に埋め尽くされていきます。当時、先生は全くその内容が理解できませんでしたが、なんかすごい先生なんだということは感じました。案の定、すぐに助教授を飛び越して、若くして教授になりました。

今考えると、おそらく皮膚を舞台にした様々な化学反応や免疫反応の最先端の話をしていたんだと思います。つまり、皮膚という「臓器」を、その機能面から生理学的に捉えていたわけで、この考え方は今でこそ当たり前かもしれませんが、当時としては時代を先取りしていたことになります。

しかし結果として、学生には全くちんぷんかんぷんだったし、医師国家試験にはひとつも役立たない知識です。なぜこんな講義をしたのか。

あとから伝え聞くところによると、この先生の信条として、「大学」というところは学問における「最高学府」である。最高のレベルの学問をしようと大学にやってきた学生に対して、自分の最先端の、最高の知識を伝授しなければ、それは失礼なことにあたる。先生は感銘を受けました。

ところが悲しいかな、医学部というところは、最高の学問を学ぶというよりは、技術を学ぶ専門学校、そして国家試験に受かるための予備校、という側面も宿命として持ち合わせています。学生たちは、自分のことを「生徒」と呼び、講義のことを「授業」と呼びます。ちょっと難しい話をすると、そんなこと「習ってない」といいます。先生はちょっと寂しいです。

そんなことを思っている折、大学からきた書類にふと目をやった先生は愕然としました。「授業計画について」と書いてあるではありませんか。大学もここまできたか。

ま、いっか。もし先生があなたに恋愛を指南するとしたら、「恋の授業」と「愛の講義」、どっちがいいですか?

readme