酸塩基平衡と水・電解質―研修医ナベの場合
先生は研修医ナベの読んでいる本が目に留まりました。
「おっ!ナベ、良さそうな本を読んでるな。『より理解を深める』か。なかなか良い心がけじゃないか。」
先生:「どうだ、もうだいぶ読んだのか?」
ナベ:「いえ、先生、全く進んでいません。」
先生:「どうしてだ。より理解が深まる本なのだろう?そうか、お前には難しすぎたんだな。」
ナベ:「いえ、難しすぎたも何も……。」
先生:「お前はもっと基礎的な本を先に読むべきなんだよ。」
ナベ:「違います、先生。俺はもっともっと重大なことに気づいたんです。」
先生:「ふむ、重大なこととはいったい何だ?」
ナベ:「実は俺、水・電解質が全く好きじゃなかったってことに気づいたんです!」
先生:「……。」
ナベ:「先生、何かを勉強するためには、まずその分野を好きにならなければなりません。俺は今、そのことに気づいたんです。そこで素晴らしい本を見つけました。」
ナベ:「ね、先生。まずこれを読んで水・電解質を好きになるんです。好きになってから、『より理解を深める』。二段構えの素晴らしい計画です!」
それからしばらく経った。先生はナベがそろそろ「より理解を深める」に進んでいる頃だろうと思い、ナベに進み具合をたずねた。ところが……。
ナベはまだ「水・電解質が好きになる」を読んでいた。
先生:「なんだ、まだ『水・電解質が好きになる』を読んでいるのか。」
ナベ「ええ、先生、しかもまだ5ページ目です。なかなか好きになれません。恐るべし、水・電解質と酸塩基平衡、こいつは難敵です!」
先生:「……。」
医学生・研修医の鬼門―酸塩基平衡と水・電解質
どうも酸塩基平衡や水・電解質という分野は医学生や研修医にとって鬼門らしい。いや、医学生や研修医のみならず、えてして医者は「目で形が見えるもの」から入っていく傾向にあり、たとえば高校や大学の教養課程で学んだはずの物理学的なこととか化学反応式なんかはすっかり忘れてしまって苦手にしている場合が多い。
その証拠に、以下にこの分野の教科書や解説書をいくつかピックアップしてみたが、そのタイトルにはやたらと「やさしい」とか「よく分かる」などが目立ち、分かりやすさ、平易さを強調したものが多いことが分かる。
やさしい電解質血液ガス酸塩基
まずこれはオーソドックスに「やさしい」。
初心者のための酸塩基平衡 (最新医学文庫 (37))
「医学生のため」とか「研修医のため」とせず、「初心者」とすることで酸塩基平衡が苦手なベテラン医師にもさりげなくアピール。
身につく水・電解質と酸塩基平衡
いくら分かり易くてもすぐに忘れてしまっては意味がない。「身につく」とすると一度読めば自分のものになるような感覚におそわれる。
30日で学ぶ水電解質と腎臓病
30日という短期間で理解が深められることをアピール。しかしナベは30日も読み続けられないと思う。
3時間で学べる血液ガス,電解質,酸塩基平衡理解の定石―基礎編+臨床編
さらに短時間。たったの3時間で学べるそうだ。3時間ならナベもなんとか持ちこたえるかもしれない。
一目でわかる水電解質
3時間どころか「一目でわかる」とし、一瞬で理解できるかのように思わせるタイトル。ナベは迷わず買ってしまうことだろう。
酸塩基平衡と水・電解質―先生の若かりし頃の場合
先生は、いつの間にか「易しさ」をアピールする解説本がこんなにも増えたことに驚いています。たしかに酸塩基平衡と水・電解質は難しい分野だとは思いますが、今はこの分野に限らず、医学生・研修医に媚を売った、やたらと簡単な医学書ばかりが増えて、先生は憤りすら感じています。
先生が研修医の頃は、水・電解質について学びたいと思ったら、このスクリブナーという先生が書いたものの訳本ぐらいしかありませんでした。
これを使って同期のみんなで勉強会を開いて学んだものです。探してみましたが、残念ながらすでに手元には残っていませんでした。
酸塩基平衡に至っては、難解で分厚い「酸塩基平衡の基礎と臨床シリーズ」しかありませんでした。これは今でも3冊そろえて持っています。特に本田良行先生の名著、「基礎編」、これを読まずして医師を名乗るべからずです!
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- 酸塩基平衡の基礎と臨床・基礎篇
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- これが中身です。はっきり言って酸塩基平衡の世界は日本語などという言語では到底理解できません。数式という言語で考えることで初めてその全貌が見えてくるのです。
よく「基礎」=「易しい」と勘違いしている人がいますが、実は物事の「基礎」こそ難解なものはありません。先生だってこの本は難解で全く分かりませんでしたよ。でも分からないままに読み進めるしかなかったのです。そして分からないままに何度も繰り返して読むのです。そのような勉強法を、今の若者は効率が悪いといって馬鹿にするかもしれませんが、誰かが分かりやすく書いた本を読むなんて勉強のうちに入りません。難解で分厚い本と格闘することこそ、真の勉強というものなのです。
ちなみに、先生は久しぶりにこの本を紐解いてみましたが、頭痛がしてきたのですぐに閉じました。
これからの酸塩基平衡、水・電解質本のタイトルを考える
もうお分かりのように、酸塩基平衡や水・電解質という分野は医学生や研修医にとって苦手な分野です。しかし逆に医学書を書く偉い先生方からみれば、分かりやすそうな解説本を書いて医学生や研修医から金を巻き上げることができる、魅力ある市場ということもできましょう。
ところがこれまで見てきたように、すでに市場は「分かり易さ」をアピールするタイトルを擁した解説本で溢れており、新規参入には少し工夫が必要かと思われます。
そこで、ここでは医学以外の分野で「分かり易さ」をアピールしている本を参考にし、新しいタイトルを考えていきたいと思います。ちなみにリンク先は医学とは無関係の、その参考にしたパクリ元の本になっていますのでご注意ください。
マンガでわかる酸塩基平衡と水・電解質
「マンガ」とかついてたらすぐ買っちゃいますねーとナベは言ってました。
わかりすぎる酸塩基平衡、水・電解質
「わかりすぎる」はこの分野ではまだ使われていませんので早い者勝ちです。
寝ながら学べる酸塩基平衡、水・電解質
ネタ元本は有名過ぎてすぐに分かってしまうかもしれませんが、「寝ながら学べる」は魅力的なタイトルだと思います。ま、酸塩基平衡で本当に寝てしまうと思いますが。
酸塩基平衡、水・電解質は10秒でわかる!
「3時間で学ぶ」という本がありましたから、それに対抗してこっちは10秒です。10秒でわかるはずありませんけど、ネタ元は「女」です。酸塩基平衡より難解な「女」がたった10秒で分かるとしている本が堂々と売られているのですから、ウソでも構いません。
超かんたん酸塩基平衡、水・電解質入門DS
これからは医学書もDSに進出すべきです。大ヒット間違いなしです。
猫でもわかる酸塩基平衡、水・電解質
「猿でもわかる」ではありきたりですので、「猫」がおすすめです。また、「猿」は頭が良すぎるので、ナベは買う前にあきらめてしまうかもしれません。
バカでもわかる酸塩基平衡、水・電解質入門
プライドの高い一部の医学生が敬遠する可能性があり、ちょっとした駆けになりますが、少なくともナベは買うと思います。
もっと売れる酸塩基平衡、水・電解質本のタイトルを考える
ここまで考えてきたタイトルは、今までの酸塩基平衡、水・電解質本に使われていなかった、いわば「隙間」を狙ったものでしたが、もう一歩進めて、他分野の方も間違って買ってしまいそうなタイトルを、最近のベストセラーを参考にパクらせてもらいましょう。もちろんリンク先はパクリ元の本になっていますのでご注意ください。
モテる男の酸塩基平衡、水・電解質
これで間違いなく男子医学生は買います。それどころか、このタイトルは一般書としてもベストセラーになる可能性を秘めており、キャバクラとかで「ベースエクセスって知ってる?」などと語ってモテモテになっちゃう時代が到来するかもしれません。
下半身からみるみるやせる酸塩基平衡、水・電解質
酸塩基平衡や水・電解質の理論を駆使したダイエット法を書いた本です。楽にやせながら知識も身につく本として女子医学生にバカ売れです。今や医学生の半数は女性ですから、その需要ははかり知れません。女子医学生の間で火がつき、ゆくゆくは文系女子やOLの間でも話題となり、メイロン・ダイエットなどが大ブームになる可能性があります。
ガンは酸塩基平衡、水・電解質で治る
ガン細胞とはいえ正常細胞と同じく、酸塩基平衡バランスと水・電解質出納の上で生きています。あながちウソのタイトルともいえません。とにかく「ガンが治る」と書いておけば売れるのは間違いありません。
酸塩基平衡、水・電解質の品格
ナトリウムは細胞外にあって浸透圧を守るべし、とか、再吸収は受動的であるべきか能動的であるべきか、など、当たり前のことを倫理っぽく書けばなんとなく売れるかもしれません。
酸塩基平衡、水・電解質なんかいらない
「~なんかいらない」も流行りのタイトルです。なーんだ、いらないんだあ、と勘違いした学生が買ってくれますが、なぜいらないのかを読むうちに知識が身についてしまうという、恐ろしい本に仕上がるはずです。
酸塩基平衡、水・電解質はなぜウソがまかり通るのか
なぜかって、それはやっぱりちゃんと分かってない人が多いからです。
なんか最後はどうでもよくなってしまいました。じゃ、またいつかお会いしましょう。












Comments
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てのはどうでしょう。
って誰かが医っていたのをふと思い出しました。
すばらしい当て字ですね。酸塩基平衡が本当に分からなくてイヤになる気持ちがよく表れています。
>かくたさん
懐かしー!物理の参考書の決定版ですね。やっぱ先生と同世代ですね。
>sekkie@PMGさん
先生が高校に入った頃、すでに自分で数Ⅰなんか終わっちゃってて、授業中に内職で「大学への数学」を読んでるような奴とかゴロゴロいて、どういう高校なんだよーって思ったのを思い出しました。ちなみに先生が入った大学の二次試験の数学は、なんと「数Ⅲだけ」でした。
わかりやすいですw
え、本当に一目で分かるのでしょうか。今度本屋で見てみますね。
>yanashinさん
それは自分で買うのではなく人に買わせる本だということですね。