
ちょっとした計算間違いで、先生は飛行機の出発までずいぶんと長い時間を余すことになってしまいました。仕方が無いので、丸ビルまでリューバでも見に行くことにしました。ところが閉幕を1週間後に控えた日曜の午後、案の定会場の前は長蛇の列です。やれやれ、まあこれも覚悟の上だ。さて最後尾に並ぶとしよう。しかし、並ぼうとした先生に警備員が近づいてきて、外に出ろと言ってます。何と失礼なことでしょう。

……行列はビルの外まで続いていたのでした。東京の寒空の下でひとり思索に耽りながら並ぶ先生。けれども思いのほか回転は早く、20分後には会場の入り口にこぎつけることができました。パネル展示やリューバのCG画像などを横目で見ながら行列は進み、さらにその約20分後には「本物の」リューバが見えてきました。しかし、立ち止まることは許されないのです。パーテーションによって行列は「本物」の前で蛇行するので、その間は遠くから「本物」を見ることができますが、直接目の前で見ることができるのはほんの何秒かの間です。

40分かけてやっと出会ったリューバをひとめ見て、先生は気がつけばもう会場を出ていました。放心状態の先生は冷静さを取り戻そうと、改めて会場を上から眺めながら、また思索に耽りました。一番奥の黒い屋根で覆われたあたりに「本物」が展示されています。
私たちは情報手段がこれほど発達しているにも関わらず、本物にこだわります。CDの完璧な演奏を何度も聴けるのに、ともすればそれよりも劣る一回限りの演奏を聞きにライブに出かけます。画集で何度も眺めているのに、本物が来れば美術館に出かけます。そして、やっぱり「本物」は違うよね、と感動したりします。ところが、こうして「本物」をわりとじっくり味わえる場合には気づきにくいのですが、今回の先生の体験のように「本物をひとめ見る」ことによって、「本物」に出会うということが何を意味するのかが明らかになってきます。
先生はリューバをひとめ見ただけです。リューバのどこがどうだったとかいうような情報は、新聞などの写真を見る方が明らかです。私たちはマンモスに「巨大で大きな牙がある」というイメージを抱いています。でもリューバは子どもです。これがマンモスの子どもなんだと知らなければ、普通の子象にしか見えません。では先生はいったい800円で何を買ったというのでしょう。本物に出会うという感動を買ったのでしょうか。そうかもしれませんが、感動はやがて薄れていくものです。ということは、先生は800円で「本物を見たという体験」を買ったに過ぎないということになります。このことは、こういう状況で初めて気づくものです。
そしてよく考えれば、「本物の」リューバは私たちに何も呼びかけていないのです。
「本当は私たちの子孫が出会うはずだったが、地球温暖化のおかげで今私たちと出会ってしまった。」
それは人々が作り上げていったストーリーであるし、そもそも物語は「リューバ」と名付けられたときから始まっていたのです。
と、先生は一瞬の出会いの虚しさを紛らわせるかのように、このようなくだらないことをグダグダと考えながら、見事時間をつぶすことに成功したのでした。そして今、無事に帰宅してテレビを見ていますが、数年前から私たちに感動を与え続けているマット・ハーディング(スミルノフ教授公式ウェッブサイト | Dancing参照)の「本物」がNHKに出てきたのを見て感動しているところなのです。











Comments
リューバつながりでコメントさせていただきます。
リューバを否定するわけではありませんが、世紀の大発見のわりには、会場のスタッフの知識のなさ、対応の悪さ、入場料の高さにややがっかりしますよね。
ロシア側の都合があったにせよ、無料で手にできる資料は裏面真っ白のチラシのみ。・・・です。しかも、このチラシには決定的に間違った表現がある。
「地球温暖化のおかげで・・・」とは何たることでしょう。肯定的な書き方は???ですよね。ちなみに、ロシア側の都合で、リューバ到着は遅れに遅れ、CT解析はたったの2日程だったそうです。リューバの版権はナショナル・ジオグラフィックスが持っているそうですが、パンフレットに写真さえ載せることも不可とか…。
人間の商魂のたくましさに、なんだか3万7千年前のロマンもしおれそうな気がします。
宅の家内が子供を連れて出かけたそうです。先生の言われるところ、彼らの反応を聞くと分かるような気がします。
一昨年でしたか、Discovery Channelが米国で大々的にシベリアの凍土で冷凍保存されたマンモスのネタで半年もたせました。それを腐るほど見せられた(米国のDiscovery Channelは再々再々放送ぐらいは平然とします)私は、、、体験が頭に焼きつくというか妙な感覚を持ったのを記憶しています。
ロマンをコマーシャリズムにのせるのって難しいですよね。
もう、ずいぶん前ですが、大阪にマンモスのミイラが来たときは、CMも少なかったせいか、ガラス越しですが、じっくり見れ、別のマンモスのですが、骨とか、毛とか触らしてくれました。
いろいろと大人の都合がからんでいるのですね。これも現代社会の縮図なのでしょうか。
>DEAR BOYS ACT2さん
あれからしばらくして、何となくリューバと目が合ったような気になってきました。記憶は後から作られるものなんだなあ、と思いましたよ。
>サンディーさん
じっくり見れてしかも触れたとは、サンディーさんはいつもラッキーですね。