スミルノフ教授公式ウェッブログ

append.gif Add to Google My Yahoo!に追加 Subscribe with Fastladder Subscribe with livedoor Reader

<< コトラ16: The Long Blog Entry | main | コトラ17:シュルレアリスムにおけるデペイズマンという手法にみる人間の超現実世界に対する認識力への自己過信と絶対的な客観の存在性について >>

入室すると試験官が二人坐っていた。試験官Aは初老の男性だった。白髪混じりの残り少ない髪。口の周りにも白髪まじりの髭がはえていた。立派なべっ甲のフレームの老眼鏡をかけていて、もともと大きな目がよりいっそう大きく見えた。試験官Bは初老の女性で、明るい色合いのスーツを着ていた。

試験官A: 所属とお名前をどうぞ。

カワセミ: N大学翡翠科(ひすいか)のカワセミです。

試験官Aは僕をリラックスさせようとしているのか、にこやかな顔で話しかけてきたが、その大きな瞳はけっして笑ってはいなかった。

カワセミさん: 症例問題の巻

試験官A: それでは、まずこの症例問題を見てください。

症例1 50歳男性。身長150cm、体重75kg。慢性関節リウマチに罹患している。環軸椎亜脱臼に対して後方固定術が予定された。ステロイドを長期内服している。親戚がアントニオ猪木。

試験官A: じゃあ早速ですが、この人の問題点を述べてください。

カワセミ: えーと、ステロイドの長期内服、腹臥位の手術に伴う危険、あ、あとは肥満に伴う様々な合併症が考えられます。

試験官A: それから?

カワセミ: リウマチに伴う合併症ですかね。腎機能障害とか?

試験官A: うーん、もっと大事なことを忘れてませんか?

カワセミ: え、えーとーえーと、なんだっけ

試験官A: ほらほら、さしすせ……

カワセミ: ステロイドカバー!

試験官A: いや、それも大事かもしれないけどね、ほら、さしすせ……

カワセミ: 醤油!

試験官A: しょうゆーこと! いや、そうことじゃなくてね、そ、そ、そ……

カワセミ: ソース?

試験官A: どんだけ腹へってるんかいな、君は

カワセミ: あ、ひょっとして挿管?

試験官A: そうそう! 挿管? 挿管なに?

カワセミ: 挿管困難!

試験官A: そそ、それをいってほしかったのよ。さて、どうしてこの患者さんに挿管困難の危険性があるのかな? 先生はそこが一番聞きたいなあ

カワセミ: えーと、それは、慢性関節リウマチに伴う環軸椎亜脱臼があるので、あまり頸部を動かすことができないからです

試験官A: それもあるかもしれないけど、ちょっと期待はずれだなあ

カワセミ: 期待はずれ?

試験官A: 君、もっと大事なことを見落としてるよ

カワセミ: え、なんだろ……。えーとえとえと(このあたりから頭が真っ白になって何も考えられなくなってきた)

試験官A: 家族歴だよ、家族歴

カワセミ: え、家族歴って?

試験官A: 親戚がアントニオ猪木!

カワセミ: え、そこかよ!?

試験官A: 末端肥大で挿管できないかもしれないじゃないか

試験官B: あと、意識が朦朧としたところで急に「ダーッ」ってゆって殴られるかもしれないわ

試験官A: そそそ。「いち、に、さん」とか言うのも、もう絶対に禁忌だからね、気をつけないとダメだぞー

カワセミ: そ、そんな……

試験官A: 君、なんかいまいちだね。じゃあ気をとりなおしてもう一問いってみよう。

症例2 30歳男性。身長175cm、体重53kg。過度の減量によって脱水状態となり意識を消失した。心電図上は心室細動である。

試験官A: さ、君どーする、どーするね

カワセミ: あのー、脱水ですからまず急速輸液をします

試験官A: ブブー。君あのね、そんなことしたらせっかくの減量が台無しになってジョーと対戦できなくなっちゃうじゃないか

カワセミ: えー、これひょっとして、あしたのジョーですか?

試験官A: ばかもの! ジョーじゃなくて力石だろ。ったく最近の若者はなってないな。

カワセミ: (知らんよ、そんなもん……)

試験官A: しょうがない。誘導してやるか。細動だよ、心室細動

カワセミ: あっ! わかった! カウンターショック!

試験官A: ひっかかりやがった!

カワセミ: え?

試験官B: それはクロスカウンターをくらうから危ないのよ。ほーほっほっほっ

そのとき、ドアの隙間から丹下段平がこっそり見ており、クロスカウンターや……とつぶやいてたという。

カワセミさん: 実技問題の巻

次の部屋に入室すると、またさっきと同じ、白髪混じりでハゲのジジイと年甲斐もなく派手なスーツを着たババアが試験官だった。僕はため息をついた。

試験官A: いやー、わりーね、また僕たちで。翡翠科も人手不足でねー

カワセミ: はあ……

試験官A: ま、こんどは実技だから。気楽にいこう、な

部屋の真ん中には蘇生人形が横たわっていた。

試験官A: じゃ、BLSやってもらうかな。できるよね、これやるって告知してあるんだし

カワセミ: はあ……

私はおもむろに蘇生人形の肩を揺らし始めた。

カワセミ: どうしましたーどうしましたー。大丈夫ですかー

試験官A: はいはい意識の確認ね。まあ正解なんだけど、みーんな同じセリフなんだよなー。君らはいいかもしれんが、先生は何人も何人も同じセリフ聞かなきゃならないんだぞ。もういいかげん飽きちゃった

カワセミ: いや、そういわれましても

試験官A: どうかね、君。ここらで一発、黒板五郎でそれやってみてくれないかね

カワセミ: 黒板五郎って、だ、誰ですか?

試験官A: 君、黒板五郎知らないの? いやだなー、ほんとに近頃の若者はー。黒板五郎っていったら黒板五郎だよー。北の国からー。田中くにえー。知らんのかねー?

カワセミ: 北の国からって、見たことないっす

試験官A: しょうがないなー。じゃあ、特別だけど、今から模範演技見せるから。よく勉強していきなさい。おい、ローリー!

ドアが開いて猫背の男が入ってきた。ローリーと呼ばれたその男は、実際には田中邦衛よりずっと若く、わざと猫背のかっこうをしているらしかった。

ローリー: やるならいましかね~ やるならいましかね~

機嫌よく歌いながら登場したローリー扮する黒板五郎。ふと、机の上の蘇生人形に気づく。

ローリー: ど、ど、ど、どうしたんだべ?

恐る恐る近づく五郎。

ローリー: だーいじょぶかぇー?

最初は小さな声でゆっくり声をかける五郎。

ローリー: おい!おい!

やがて、事の重大さに気づいて、大きな声を出しながら激しく蘇生人形を揺さぶる五郎であった。

ローリー: ひぇー! たいへんだ~!

後方に飛び退き、尻もちをついて慌てる五郎。必死で立ち上がり、誰か助けを(たぶん地井武男を)呼びに行く。

ローリー: 草太がたいへんだー! だれかー!

そしてローリーは退場した。そのとき、どこからともなくスキャットが聞こえてきた。もちろん、夜明けのスキャットではない。

試験官A: アアーアアアアアーア、アアーアアアアアー

さだまさしが作った北の国からのテーマ曲だった。試験官Aが歌っているのだった。試験官Aはうっすらと涙を浮かべて感慨にふけりながら、歌っていた。試験官Bは、そっとハンカチを出して目尻に溜まった涙を拭きとった。

試験官A: ムムームムムムームム、君に幸せあれ

試験官B: あら先生、途中から長渕剛の乾杯になっちゃってますよ

試験官A: ああ、こりゃあ失礼した。ま、いいじゃないか。だって北の国から'89帰郷では乾杯も需要なテーマソングになるからなあ、あながち間違いともいえない。

私も試験官Bもあきれたという顔つきで試験官Aを見た。

試験官A: じゃあ次の課題にとりかかろう

カワセミ: え、次の課題ってなんですか? なんにも聞いてないんですけど

試験官A: 蘇生ダジャレゲーム!

カワセミ: 蘇生ダジャレゲーム?

試験官B: 最後の問題なので得点が倍になりまーす!

カワセミ: ば、倍になりますって、テレビのクイズ番組じゃないんだから……

試験官A: 君、このままじゃ、合格は危ないぞ。やるのかね、やらんのかね

カワセミ: あ、や、やりますやります

試験官A: それでは得点が倍になるラストチャンスゲーム! 先生に続いてダジャレを言いながら蘇生術を行ってください!

試験官Aはいつのまにか立ち上がって、手にはマイクを持っていた。

試験官A: たいへんだ。ただちに静脈路を確保しなくちゃっ。アンジェリーナ・静脈路確保! はい、君!

試験官Aはそう言って僕にマイクを向けた。僕? 僕の番なのか?

カワセミ: えーとえーと、はい、トミー・リー・静脈路確保しました!

試験官A: アントニオ・カルロス・静脈路確保完了! 心電図はどうなってるかね、はい、君!

カワセミ: し、心電図? えーとえーと、はい、心室細動隆盛です!

試験官A: おお! 君、やればできるじゃないか。非ジョーニー・B・グッドだよ、君。笑わせるじゃないか、心室細動輝彦だって?

カワセミ: (やった! はじめてほめられた)はい!心室細動秀樹です!

試験官A: うーむ、原因はなんだろう。どっか出血でもしているのだろうか

カワセミ: あ、先生、たいへんです。肛門からネアンデルタール便が!

試験官A: よく見つけたぞ! そうすると消化管出血がベースにありそうじゃな。よーし、輸血をするからすぐにクリストファー・クロスマッチじゃ!

カワセミ: 先生、それよりも早くタイガー・ジェット・心マッサージをしなくてはなりません!

試験官A: それは私がやろう。君はタイガーマスク換気で人工呼吸をしてくれ!

カワセミ: 先生、そろそろワシントンDCかけましょう!

試験官A: じゃあ、除細動器を用意しろ! 360ジュールにアブドラ・ザ・ブッチャージ!

カワセミ: 先生、ダメです。心停止~高峰!

試験官A: レオナルド・ダ・ヒ° ーンチ!

こうして僕の翡翠科専門医試験は終わった。最後の問題の得点が倍だったおかげで、どうやら合格することができたようだ。今の気持ちですか? ほんと、みんなざまあみろって感じです。人生振り返ってみて、よくよく考えてみたら、人間ってやっぱり、ざまあみろって思うときが、一番幸せなんじゃないでしょうか?

それでは、みなさんのご健闘を祈ります(心にもないけどな)。

permalink | comments (8) | trackbacks (0) | | by スミルノフ教授

Comments

あっくん | 2011/12/02 18:01
教授、はじめまして。初コメントさせていただきます。心停止~高峰!のところでお茶を吹いてしまいました。
taka | 2011/12/02 19:52
私も初コメントになります。
久しぶりにローリー登場でしたね。楽しく読ませていただきました。ワシントンDCに心室細動秀樹っすか、今度CPA搬送があった時のストックに致します。
あみーゴ | 2011/12/02 21:34
「酸塩基平衡」から辿り着いてはや数年。二万字の後のコレですか!教授、惚れなおしました。
眠狂四郎 | 2011/12/03 08:43
教授!!さえてますよ、剃刀のように。
サンディー | 2011/12/03 18:53
・・・長くても、先生の文章を読まずにはいられません。これは、一種の中毒でしょうか。
仮性体臭 | 2011/12/04 23:10
先生相変わらずネタが豊富ですね。翡翠科って難しそうな科の様ですが、私でもなれるでしょうか?
みっぴ | 2011/12/05 03:24
はじめてコメントします
数年前 借り物の蘇生人形で遊ばれてる若い先生たちを思い出しました
コンピューター制御の高価なドイツ製のやつでした

どんなにがんばって生かそうとしても
コンピューターをいじっているベテランの先生が
イジメみたいな急変の入力をするので
結局若い先生たちは蘇生人形のスミス君だったかを死なせました

それで その入力をやってたベテランの先生たちは
「下半身いらないから上半身を半額で売ってくれよ」
などと値切っていました

ダジャレゲームさいこーでした ありがとうです
スミルノフ | 2011/12/06 11:44
>あっくん 人によってお茶を吹き出す場所がぜんぜん違うのでおもしろいです。
>takaさん 蘇生業界の方ですか? やはり蘇生業界では日々ダジャレが生まれ消費されているということがバレバレですよ。
>あみーゴさん 酸塩基平衡かあ。懐かしいけどけっこう最近だね。
>眠さん まあ実はこれもストックの焼き直しだからなあ。昔はさえていた、ってことかなあ……
>サンディーさん 私にも、面白くなくても買わずにはいられない作家、というのが数名います。
>仮性体臭さん 生きてたか。君のために作った科です。
>みっぴさん それ、きっと冗談でなく高いっすよ。蘇生実習は慣れてくると、往々にしてそういうジョークに走りやすいものですよね。

私が今までにいただいたコメントで一番ウケたのは、うちの大学では和太鼓チームを呼んでそれをバックに心マの練習をしています、っていうものでした。もちろんウソだけどね。

あと、私が自分で読んで一番ウケるのは、
やるならいましかね~
ってところです。

じゃ、また!

Comment Form

Trackbacks

<< コトラ16: The Long Blog Entry | main | コトラ17:シュルレアリスムにおけるデペイズマンという手法にみる人間の超現実世界に対する認識力への自己過信と絶対的な客観の存在性について >>