2007/10/17 水
刺したのは大人だった。
子どもが死に際に言い残した言葉っていうのは切ないな。
もう20年近く前の話になるけど、俺は、自分が麻酔を担当した単心房単心室の女の子をときどき思い出す。たしかフォンタン手術だったと思う。当時としては一か八かの手術だった。
とても物分りが良い子で、手術前夜は堂々としていたけれど、当日の朝、手術室に入るときに、彼女の目尻から一筋の涙がほろりと落ちるのを見てしまった。
「大丈夫?」と声をかけたが、彼女は「何でもない」といって隠すように涙を拭った。たぶん、周りが心配することが嫌だったんだと思う。
結局、その会話が最後になってしまった。 俺は、彼女がこの世で話した最後の相手になってしまったんだ。
小学校入学前後ぐらいの子だったと記憶しているんだけれど、あのとき、彼女はすでに立派な大人だった。死というものを理解し、受け入れていたんじゃないかと思う。そうだとすれば、今の俺よりもよっぽど立派な大人だった。

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