1年くらい前だったでしょうか。先生は飛行機の中で何気なく手にした機内誌の中に、竹内薫がジル・ボルト・テイラーの"My Stroke of Insight"を訳している最中だという記事を見つけました。それからずっとこの本の刊行を心待ちにしてたのですが、他に読んでいる最中の本がいくつかあったので、すっかり読むのが遅くなってしまいました。
話がそれますが、他に読んでいた本とは、シモーヌ・ヴェイユ、スーザン・ソンタグ、須賀敦子の著作や関連本です。ジル・テイラーも含めてみんな女性です。なんか最近の先生は女性の著作ばっかり読んでいます。どうしてなのかはよく分かりません。
「奇跡の脳」の内容は竹内薫の記事やNHKの特番である程度知っていました。中でも先生が衝撃を受けたのは、「時間が流れている」という感覚も、「私のからだの境界」という感覚も、脳の中で作り出された概念に過ぎないということです。もちろんそんなことは先生だって、ずっと前から頭の中では考えていましたよ。でも脳出血で左脳機能を現実に失っていくひとりの脳科学者の「体験談」は、凡百の理論書よりも圧倒的な迫力を持って語りかけてくるのです。
右脳人間となった彼女が「自分の境界」を失い、自分が世界とつながっているような「多幸感」に包まれ、元に戻りたくないとさえ思ったことは非常に興味深い。ですが先生は、むしろ彼女が左脳機能の回復とともに感情の起伏などを「他人や外部のせいにすることが自然に思える」ようになったとき、そのときにふと気づいた「感情はからだの中の感覚であり、自分の脳以外には誰も何かを感じさせる能力などないのだ」ということに感銘を受けました。
これは、コアな読者ならご存知の、先生が以前某所で書いた次の言葉にもつながると思いました。
どうしようもなくつらいとき、自分は本当につらいのだろうか、つらい自分を演じているのではないだろうかと、一度自分を疑ってみるとよい。少し楽になっただろ。
本当の幸せはあなたの中にあります。
彼女はその感情が90秒以上続いたとき、それは左脳がその感情を選択したのだといいます。
そしてまた、この自分の脳の存在のさとりは次のことと無関係ではないと思います。
彼女は左脳機能を失ったときの多幸感を、前半では「神の宿る右脳」といっていますが、後半では「ニルヴァーナ(涅槃)」と表現しています。先生は彼女の宗教的バックグラウンドを知りませんが、西洋人から突然仏教用語が飛び出すことは意外に思えます。おそらく「自分が宇宙とひとつだ」という感覚が、創造主としての人格神よりも、涅槃や「さとり」によりマッチしていったのでしょう。
彼女はずいぶんと左脳の悪口を言っていますが、先生には愛情のこもった悪口に思えました。なにしろ彼女は再び左脳機能を取り戻すことを選択し、私たちにその体験を伝えるために帰ってきたのです。もし左脳の悪口が書いてあったとしても、それは左脳の仕業なのです。
最後に、先生は今、ただ微笑むことしかできない人や、ただうめき声をあげることしかできない人と関わることが多いのですが、彼らにも彼らの世界が存在するのだという思いを強くしたことが収穫でした。それと驚くのは、彼女は倒れてから自宅のリハビリに入るまでの5日間、血腫除去術を受けてからの5日間、こんな大病なのに合計わずか10日間しか入院していないことです。さすがアメリカですね(いろんな意味で)。



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明日到着予定。読むのが楽しみになってきました