春の花の季節がやってきました。春の訪れを知らせるかのようにほんのひとときだけ咲き誇り、そして初夏が来る前には散ってしまう、そんなはかなさが春に咲く花の魅力ではないでしょうか。
先生は内地に来て初めて、サクラ、特にソメイヨシノの美しさがよく分かりました。街中や観光名所を彩るサクラももちろんいいのですが、先生は山里にひっそりと群生するカタクリも大好きです。ですから、毎年この時期になるとその群生地に行って毎年変わりばえのしないヘボ写真を撮るのが恒例となっています。
今年は時間もあまりなく、けっして満足のいくものではありませんでしたが、もし興味がおありでしたらこちらにアップしております。
■ KayaSumi PhotoLog | 今年のカタクリ
■ KayaSumi PhotoLog | カタクリとギフチョウ
さて、今日の本題に入りますけど、普通花の写真を撮るというと、こういう写真になります。今年はあまりいい写真がないので、昨年の写真の中から一枚ピックアップしてみます。

そう、こうして「花だけ」を撮る。記念写真を撮るのなら別ですが、一応趣味で花の写真を撮りにいった場合、そのとなりでイェーイとか言ったりピースピースとかポーズとったりしている人をいっしょに入れるっちゅうことはしないです。そうしてできれば絞りを開いて、前ボケをちょっと入れて、背景もボカして主人公の花を浮き上がらせる、そんな写真が通常の花写真だと思います。
さて、こうした季節の風物詩的な花の場合、季節の話題として新聞に載ることは珍しくありません。この群生地のカタクリの花も、当地の地方版によく載ります。たとえば何年か前の記事ですが、こんな感じです。

お気づきでしょうか。これがこのような報道写真になると、まず「花だけ」ってことはありません。もちろん主役のカタクリは手前に大きく写っていますが、その向こうにご婦人が二人と、花にカメラを向けて一心不乱に撮影するおじさんがひとり、あまりボカされずに写っています。
このように、報道写真では、花も大事ですが、それを楽しむ人々も情景の一員として大事な役割を果たすのです。そして本文には、訪れた人々は談笑しながら花を楽しんだりカメラを向けて撮影したりしていた、などという文章が挿入されます。
はい、以上でお話は終わりではありませんよ。ここから話が面白くなるんです。実はこの写真に写っているカメラを構えたおじさんは先生自身なのです。そして二人のご婦人は、ひとりは先生の奥さんで、もうひとりはこれを写した報道カメラマンの奥様です。事の顛末はこうでした。
ある休日の午前中、先生たち二人は群生地をとぼとぼと歩いて被写体を物色していました。そこへ背後から大きなカメラを2台かかえた男性が大きな声で話しかけてきました。
「よかったぁー、人がいて。」
それがその報道カメラマンでした。
「いやー、誰もいなかったらどうしようかと思って、家族サービスだって騙して息子とカミさんも連れてきたんですよ。」
当時は知る人ぞ知る場所だったので人影もまばらでした。しかし、前述のように報道写真では「花だけ」を撮るわけにはいかないのです。カメラマンは苦肉の策としてご家族を連れてやってきたというわけでした。
「じゃ、すいませんけど、ダンナさん、カメラを構えて花の写真撮っててください。おーい、お前もそっちに行ってくれ。」
そうしてカメラマンの奥さんも先生たちのそばにやってきました。
「奥さーん、すいませんけどうちの奴と何か話してるふりしてくださーい!」
さすが女性です。初対面の女性二人は話すふりではなく、本当に世間話を始めました。カメラマンってたいへんなんですねー的な話です。いや、本当にたいへんなのだろうと思います。きっと24時間が仕事、ろくに休日もないのでしょう。そんな中で今日は花の撮影、ラッキー、ついでに家族サービスができる、きっとカメラマン氏はそう思ったに違いありません。しかし、カメラマン氏の思惑は、お前もそばに行けと言われた息子さんの次の発言で台無しになってしまいます。
「やだよ!何が花だよ!俺は花なんかに興味なんかないやい!」
息子さんは涙を浮かべてどこかへ消えてしまいました。気持はよく分かります。年ごろの男の子が花に興味なんかあるはずありません。普段あまり相手のしてもらえない父親に、珍しくどこかへ連れていってやると言われた。遊園地か、公園で野球やサッカーか、はたまたゲームショップか。期待が膨らむ中、やってきたのは地味な花の群生地です。ましてや、桜の名所とかならまだしも、ここは人影もまばらな山中なのです。
カメラマンは気を取り直して撮影にとりかかりました。しかし、手前にカタクリの花を大写しにして、背景に人を入れる、言うのは簡単ですが、そのためには撮影者自身が花畑の中に入らなければなりません。ところがここは貴重なカタクリの保護地、花の咲く場所にはロープがはりめぐされており、入ることはできません。ところが先生はそこで彼の驚くべきプロ根性を見たのです。カメラマンは、片足だけを花のないところに慎重に踏みいれ、そして体を大きく横に折り曲げながら地面すれすれのところまでカメラを低く構えました。先生は感動しました。
向こうもプロだが、でも先生だって世界的な先生です。黙って写されるわけにはいきません。そこで先生は逆襲に転じました。まさにカメラマンがシャッターを押そうとするその瞬間、先生はとっさにポケットからコンパクトカメラを取り出し、こっそりとそのときの様子を逆撮影することに成功していたのです。見よ、このプロカメラマンの技を。

きっと報道カメラマンは、とっさにどんな構図でも撮影できるよう、日々柔軟体操に励んでいるに違いありません。
このときから先生は、いつか機会があったら、花とともに「人を入れて」撮影することに挑戦しようと思い続けていました。実は今年、そのような意図で、ある一人の男性をモデルとして連れていくことにしたのです。カタクリにまじって咲くショウジョウバカマのかたわらに、その男性に入ってもらって撮影してみました。先生にとっては初めての試みですが、その出来栄えはいかがなものでしょうか。
